大阪・中之島 レクシア特許法律事務所のブログです。

2016年12月22日木曜日

スティック加湿器事件の知財高裁判決(勝訴)のご報告

山田です。

弊所の弁護士チームが原告(控訴人)代理人として担当させていただいたスティック加湿器事件の知財高裁判決(平成28年(ネ)第10018号 不正競争差止等請求控訴事件 知財高裁第2部)が平成28年11月30日に出されました。
※上告期限の12月16日までに双方から上告はなされなかったため、知財高裁判決はすでに確定しています。

【裁判所HP(判決全文)】
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/320/086320_hanrei.pdf
【知財高裁HP(判決全文+判決要旨)】
http://www.ip.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail?id=4516

本件は、フリーのデザイナーである原告(控訴人)らが展示会に出展した加湿器の形態を模倣した類似品に関する侵害案件です。
プロダクトデザインの模倣案件であるため、意匠権を取得していれば、意匠権に基づき、権利行使をするべき事案だとは思いますが、本件では、残念ながら意匠出願がなされていなかったため、不正競争防止法2条1項3号(商品形態模倣)と著作権侵害に基づいて、差止めと損害賠償を求めて争うことになったものです。

【控訴人加湿器1】     

【控訴人加湿器2 (展示会に出展された加湿器)】

【控訴人加湿器3(実際に販売された商品)】

 【被告(被控訴人)製品】

原審の東京地裁判決(東京地判平成28年1月14日 平成27年(ワ)第7033号)では、発売前に展示会に出展した物品(試作品)の模倣であったことを理由に不競法2条1項3号の商品該当性を否定し、また、著作権侵害についても著作物性を否定し、原告の請求を棄却する判決が下されました。

これに対し、知財高裁は、不正競争防止法2条1項3号の商品該当性を肯定し、模倣行為も認めた上で、計189万円の損害賠償請求を認容しました。

(商品該当性に関する規範)
商品開発者が商品化に当たって資金又は労力を投下した成果を保護するとの上記の形態模倣の禁止の趣旨にかんがみて,「他人の商品」を解釈すると,それは,資金又は労力を投下して取引の対象となし得ること,すなわち,「商品化」を完了した物品であると解するのが相当であり,当該物品が販売されているまでの必要はないものと解される。このように解さないと,開発,商品化は完了したものの,販売される前に他者に当該物品の形態を模倣され先行して販売された場合,開発,商品化を行った者の物品が未だ「他人の商品」でなかったことを理由として,模倣者は,開発,商品化のための資金又は労力を投下することなく,模倣品を自由に販売することができることになってしまう。このような事態は,開発,商品化を行った者の競争上の地位を危うくさせるものであって,これに対して何らの保護も付与しないことは,上記不正競争防止法の趣旨に大きくもとるものである。
もっとも,不正競争防止法は,事業者間の公正な競争を確保することによって事業者の営業上の利益を保護するものであるから(同法3条,4条参照),取引の対象とし得る商品化は,客観的に確認できるものであって,かつ,販売に向けたものであるべきであり,量産品製造又は量産態勢の整備をする段階に至っているまでの必要はないとしても,商品としての本来の機能が発揮できるなど販売を可能とする段階に至っており,かつ,それが外見的に明らかになっている必要があると解される。」

(控訴人加湿器1の商品該当性)
「前記第2,2(3)①のとおり,控訴人らは,平成23年11月,商品展示会に控訴人加湿器1を出展している。商品展示会は,商品を陳列して,商品の宣伝,紹介を行い,商品の販売又は商品取引の相手を探す機会を提供する場なのであるから,商品展示会に出展された商品は,特段の事情のない限り,開発,商品化を完了し,販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになったものと認めるのが相当である。なお,上記商品展示会において撮影された写真(甲3の2,25)には,水の入ったガラスコップに入れられた控訴人加湿器1の上部から蒸気が噴き出していることが明瞭に写されているから,控訴人加湿器1が,上記商品展示会に展示中,加湿器としての本来の機能を発揮していたことは明白である。
ところで,前記第2,2(2)③のとおり,控訴人加湿器1は,被覆されていない銅線によって超音波振動子に電力が供給されており,この形態そのままで販売されるものでないことは明らかである。
しかしながら,商品としてのモデルが完成したとしても,販売に当たっては,量産化などのために,それに適した形態への多少の改変が必要となるのは通常のことと考えられ,事後的にそのような改変の余地があるからといって,当該モデルが販売可能な段階に至っているとの結果を左右するものではない。
上記のような控訴人加湿器1の被覆されていない銅線を,被覆されたコード線などに置き換えて超音波振動子に電源を供給するようにすること自体,事業者にとってみれば極めて容易なことと考えられるところ,控訴人加湿器1は,外部のUSBケーブルの先に銅線を接続して,その銅線をキャップ部の中に引きこんでいたものであるから(甲24),商品化のために置換えが必要となるのは,この銅線から超音波振動子までの間だけである。そして,実際に市販に供された控訴人加湿器3の電源供給態様をみると,USBケーブル自体が,キャップ部の小孔からキャップ部内側に導かれ,中子に設けられた切り欠きと嵌合するケーブル保護部の中を通って,超音波振動子と接続されているという簡易な構造で置換えがされていることが認められるから(乙イ4,弁論の全趣旨),控訴人加湿器1についても,このように容易に電源供給態様を置き換えられることは明らかである。そうすると,控訴人加湿器1が,被覆されていない銅線によって電源を供給されていることは,控訴人加湿器1が販売可能な段階に至っていると認めることを妨げるものではない。
以上からすると,控訴人加湿器1は,「他人の商品」に該当するものと認められる。』

著作権侵害の成立は否定されているため、代理人としては、若干、不満な点も残る判決ではありますが、裁判所が、発売前に展示会に出展した物品に関して、不正競争防止法2条1項3号の「商品」としての保護を認めた点は、従来の裁判例の枠を一歩踏み出した画期的な判決といえるのではないかと思います。

また、残念ながら侵害が否定された著作権侵害の点に関しても、TRIPP TRAPP事件(知財高判平成27年4月14日 平成26年(ネ)第10063号)で著作物性を幅広く認める規範を示した知財高裁第2部が、実際のあてはめの点で厳しい判断をした点で、非常に興味深い判決なのではないかと思います。

原審の東京地裁判決に関しても、色々な学者の先生や実務家の方が論文やブログなどで取り上げてくれていましたが、今回の知財高裁判決に関しても、みなさんのご意見を聞かせていただけるのを楽しみにしています。

追伸
本事件は、以前、このブログでも紹介した「意匠法巴戦」の連載(発明推進協会発行「発明」に連載)を一緒に担当した東の横綱 五味ノ山(しろくま部屋、五味飛鳥弁理士)と一緒に担当させていただいた事件です。本事件を頭の片隅に置いて当時の連載記事を読んでいただくと、なかなか味わい深いのではないかと思います。
http://lexiapartners.blogspot.jp/2014/05/blog-post_27.html
http://lexiapartners.blogspot.jp/2014/08/blog-post_5.html

山田威一郎


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