大阪・中之島 レクシア特許法律事務所のブログです。

2019年3月13日水曜日

Brexit後のEU商標の英国での保護(詳細版)

田中景子です。

先日、松井から「合意なき離脱の場合」についての記事をアップしましたが、
今回は、「合意ある離脱の場合」も含めて詳細版をアップします。

Brexit(英のEU離脱)に関連し、離脱協定の締結期限(2019年3月29日)が迫るなか、英国内では、依然として、離脱協定の採否や、EU離脱延期の可能性などが議論されています。

その中で、英国政府は、2019年3月1日付けで、「合意なきEU離脱の場合の商標法への変更(原題:Guidance「Changes to trade mark law in the event of no deal from the European Union」)という指針を公表しました。

Brexit後、EU商標は英国でどのように保護されるのか。
以下、離脱合意のある場合/合意ない場合に分けて紹介します(直近の2019年3月1日英国政府の指針を参考に)。

(1)離脱合意のある場合
現行の離脱協定案によると、完全離脱までの移行期間である2020年末(=2020年12月31日)の後、EU商標は、英国で以下のように保護されます。

離脱日(2020年12月31日)直前までに登録されたEU商標は、離脱日に、当該EU商標と同等の英国の国内商標権が、自動的にEU商標権者に新たに設けられます(国内商標権の取得に費用は発生せず、且つ手続的負担もありません)。

離脱日時点で審査に係属中のEU商標は、離脱日に、当該EU出願の先願日や優先日を維持するために、当該EU商標と同等の英国の国内商標を出願する権利がEU商標権者与えられるにすぎません。したがって、原EU商標の出願人は、離脱日から9ヶ月以内(2021年9月30日まで)に英国政府に対して国内商標を出願する必要があります。出願手続きや費用の詳細は決まっていませんが、通常の国内出願と同等の庁料金を支払っての新規の国内出願となるのではと推測されています。

(2)離脱合意のない場合
2019年3月1日指針によると、離脱日直前までに登録されたEU商標は、離脱日に、当該EU商標と同等の英国の国内商標権が、EU商標権に新たに設けられます。同指針によると、この国内商標権は、英国の商標法下で出願され且つ登録されたように取り扱われます。原EU商標とは完全に独立した権利として、異議・譲渡・ライセンス・更新の対象となります。

英国の国内商標権の取得にあたり、費用は発生しません(ただし、最小限度の行政的負担が権利者に求められます)。

英国の国内商標の登録番号は、英国政府の作業の簡便化のため、EU商標番号の下8桁の頭に「UK009」を付けた番号になります。たとえば、EU商標の番号が「000000977」の場合、これに対応するUK商標の番号は、「UK00900000977」となります。

英国の国内商標の商標登録証は発行されず、代わりに、英国政府のオンラインデータベースで確認できます。

離脱日の時点で審査に係属中のEU商標は、離脱日に、当該EU商標と同等の英国の国内商標を出願する権利が与えられるにすぎません。したがって、原EU商標の出願人は、英国政府に対して国内商標出願を行う必要があります。特に、当該EU出願の先願日や優先日を維持するためには、離脱日から9ヶ月以内に国内出願を行う必要があります(原EU商標の同一の商標、指定商品・役務範囲内であることも要件です。この要件を満たさない場合、原EU商標の出願日の利益を享受できません)。

当該国内商標出願は、英国の商標出願として取り扱われ、英国商標法に基づき審査されます。

(3)まとめ
以上の通り、離脱合意ある/なしにかかわらず、EU商標の英国での保護に大きな違いはないと思われます。すなわち、離脱日直前までに登録済みのEU商標に対しては、新たに英国の国内商標権が設けられて保護されます。

 一方、離脱日時点で審査に係属中のEU商標に対しては、離脱合意ある/なしにかかわらず、英国政府は、保護のためのアクションは取りません。EU商標の出願人は、当該EU商標と同様の保護を英国でも享受するためには、自ら、英国政府に対して新規に国内出願手続きを行う必要があります。特に、原EU商標の先願日や優先日を維持するためには、離脱日から9か月以内に出願手続きを行う必要があります。

また、離脱日後に設けられる英国の国内商標権の更新管理に注意が必要です。同指針では、英国の国内商標権は、原EU商標権とは別の独立した権利となるため、英国の国内商標権の更新手続は、英国政府に行う必要があると明記されています。なお、離脱日前後で更新が可能なEU商標権について、離脱日前にEUIPOに更新手続きを行った場合、離脱後に発生する英国の国内商標権には再び更新手続きが必要か。離脱協定案にも当該指針にも明記されていません。よって、離脱日後に更新期限を迎えるが離脱日前に更新が可能なEU商標権については、更新手続きの時期については、現地からの情報を得てから慎重に検討されるとよいかと思います。

なお、昨日の3月12日、イギリス議会は、EUからの離脱条件を定めた協定案を再び否決しました。
そして、13日には、このまま「合意なき離脱」を行うのかを議会で諮ることにしています。そこでも否決濃厚との報道もあり、その場合には、14日に「離脱延期」の採決も行われます。Brexitは混迷しています。


田中景子


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