大阪・中之島 レクシア特許法律事務所のブログです。

2019年7月22日月曜日

【商標実務】「アディダス三本線」商標から見た欧州における図形商標の識別力

田中景子です。

欧州連合(EU)では、ご存じのとおり、欧州連合商標(EUTM)の商標登録を取得すれば、EU全域にその効力が及びます。EUTMは、EU加盟国(28ケ国)で個別に国内登録するよりも経済的で手続も簡易です。
審査は、主として識別性のみです。先行商標の有無は審査されません。EUTMでは、識別力が認められ、出願公告期間に異議申立がなければ、早く商標登録ができるメリットがあります。

一方で、EUTMの出願では、不安定要素もあります。

第1に、EUTMには、無効審判があり、無効理由は、識別力などの絶対的拒絶理由、先後願などの相対的拒絶理由の双方です。商標登録できたとしても、EU内に同一類似の先行商標権者がいる場合、無効審判を請求されるリスクがあります(ただし、無効理由のあるEUTMが5年以上登録および使用されていることを黙認していた先行権利者は、そのEUTMの商標登録の有効性を争うことができません)。

第2に、EUTMでは、識別力の判断は、EU域内の需要者・取引者を基準にします。たとえば、EU域内の一部の国のみで使用されている標章であっても、EUTMの審査で記述的商標に該当するとの拒絶理由を受ける場合があります。また、使用による識別力獲得の立証範囲はEU全域です。

最近の例では、2014年にEUTMの登録が認められたアディダス3本線の商標がありましたが、2016年にベルギーの会社から欧州連合知的財産庁(EUIPO)に無効審判が請求されて無効になりました。


アディダスはこれを不服として、欧州連合一般裁判所(General Court of the European Union)に提訴していました。裁判所は、使用証拠が登録商標と同一でなかったこと(黒の背景に白のストライプなど配色が登録商標と逆であるなど)、使用証拠はわずか5つの加盟国に関するものであることから、3本線商標は、EU全域において使用による識別力を獲得したとはいえないとして、EUIPOの無効審決を支持しました(現時点では欧州司法裁判所(ECJ)への上訴の有無は不明です)。

本件から分かることは以下の2つです。

第1に、3本線商標は、EUIPOの審査では識別力を欠くとの拒絶理由を受けずに登録となったものの、無効審判では識別力を欠き、且つ、セカンダリーミーニングも有さないとして、無効にされました。EUIPOの審査をクリアしていたとしても、無効審判で登録無効となるリスクに注意が必要です(逆にいえば、EUで使用の障害となる先行登録商標があった場合も、識別力を欠く場合、対抗措置として、無効審判を請求する選択肢があります)。

第2に、識別力が弱いと思われる商標については、EUTMにおけるセカンダリーミーニングの立証は、願書に記載された商標(「商標の説明」を含む)と使用商標の一致性の判断が厳密に行われていること、且つ、5つの加盟国だけでの立証は不足しており、EU全域の需要者の間で広く認識されていることを立証する必要があることがわかります。

本件を参考に、識別力が弱いと思われる商標のEUTM出願の場合には、権利の安定性と立証の厳密性についてご注意ください。

田中景子

資料:
The General Court of the EU confirms the invalidity of the adidas EU trade mark which consists of three parallel stripes applied in any direction:
https://curia.europa.eu/jcms/upload/docs/application/pdf/2019-06/cp190076en.pdf


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