大阪・中之島 レクシア特許法律事務所のブログです。

2013年2月17日日曜日

6件目の知財高裁大合議判決(ごみ貯蔵機器事件)


山田です。

新聞報道等でご存知の方も多いと思いますが、2月1日にごみ貯蔵機器事件の知財高裁大合議判決(知財高裁平成24年(ネ)第10015号)が出されました。

知財高裁大合議判決に関しては昨年レクシアセミナーでも紹介をさせてもらいましたが、この件が大合議の6件目の判決となります。

ちょうどタイミングよく、2月14日(バレンタインデー当日)に日本ライセンス協会の判例研究ワーキンググループで私の発表担当の会がありましたので、原審の東京地裁判決と知財高裁判決(まだ判決要旨しか公表されていませんが・・)の発表をさせてもらいました。



本事件の事案の概要と判決の骨子は以下のとおりです。

【事案の概要】
本事件の原告のサンジェニック社は、おむつ処理機器(商品名「におい・クルルンポイ」)と専用のゴミ袋入りカセットを、アップリカ社の前身の会社(アップリカ育児研究会アップリカ葛西株式会社)を通じて販売していましたが、平成20年11月に契約を解消し、その後、競合のコンビ社を通じて日本市場に提供するようになりました。

(原告商品に関しては、コンビのホームページを見ていただくと動画が掲載されています)

しかし、契約を解消されたアップリカ社も黙ってはおらず、契約解消後、サンジェニック社製のおむつ処理機器に適合する交換用カセットの販売を開始しました(アップリカ社製のカセットは、サンジェニック社製カセットに比べて2割強程度廉価だったようです)。
そこで、これに怒ったサンジェニック社は、アップリカ社の行為が、サンジェニック社保有の特許第4402165号及び意匠登録第1224008号の侵害にあたると主張し、差止請求、損害賠償請求をもとめる訴訟を東京地裁に提起しました。

第一審の東京地裁判決(平成23年12月26日判決)は、アップリカ社による特許侵害を認めましたが、特許法102条2項に基づく被告利益額の損害額の推定は否定し、特許法102条3項に基づき実施料相当額の損害金2113万9152円のみを認容しました。この損害額の認定を不服として、サンジェニック社が知財高裁に控訴したのが今回の事件ですが、知財高裁は以下のように述べ、102条2項の適用を肯定し、損害額を約1億4800万円に増額しました。

【判決の骨子】
「特許法102条2項は、民法の原則の下では、特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには、特許権者において、損害の発生及び額、これと特許権侵行為との間の因果関係を主張、立証しなければならないというところ、その立証等には困難が伴い、その結果、妥当な損害の填補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益額を特許権者の損害額と推定するとして、立証の困難性の軽減を図った規定である。このように、特許法102条2項は、損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定であって、その効果も推定にすぎないことからすれば、同項を適用するための要件を、殊更厳格なものとする合理的な理由はないというべきである。

したがって、特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、特許法102条2項の適用が認められると解すべきであり、特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情は、推定された損害額を覆滅する事情として考慮されるとするのが相当である。 そして、後に述べるとおり、特許法102条2項の適用に当たり、特許権者において、当該特許発明を実施していることを要件とするものではないというべきである。

1審原告は、A社との間で販売店契約を締結し、これに基づき、A社を日本国内における1審原告製品の販売店とし、A社に対し、英国で製造した本件特許発明に係る1審原告製カセットを販売(輸出)していること、A社は、1審原告製カセットを、日本国内において、一般消費者に対し、販売していること、もって、1審原告は、A社を通じて1審原告製カセットを日本国内において販売しているといえること、1審被告は、1審被告製品を日本国内に輸入し、販売することにより、A社のみならず1審原告ともごみ貯蔵カセットに係る日本国内の市場において競合関係にあること、1審被告の侵害行為(1審被告製品の販売)により、1審原告製カセットの日本国内での売上げが減少していることが認められる。

以上の事実経過に照らすならば、1審原告には、1審被告の侵害行為がなかったならば、利益が得られたであろうという事情が認められるから、1審原告の損害額の算定につき、特許法102条2項の適用が排除される理由はないというべきである。」

本件の最大の争点は、特許権者が特許発明を実施していない場合にも、特許法102条2項の推定規定が適用され得るかとの点でしたが、この点に関しては、従来否定説が多数説でした。
本判決は、従来の多数説を覆したものであり、実務上も大きなインパクトを持つものと思われます。
ライセンス協会の発表の前日、原告製品「におい・クルルンポイ」を、我が家の犬たちのトイレシーツのごみ箱とし購入してみようかと思い、嫁に聞いてみたところ、「その商品、友達が使っていたけど、カセットが高いらしいよ。」と即答され、買うのをやめました!
その指摘を受けて初めて気づいたのですが、本件もインクカートリッジなどと同じ消耗品ビジネスを守るための特許訴訟の一種なのだと思います。

本判決の詳細については、3月に開催予定のレクシアセミナーでも解説する予定ですのでお楽しみに(セミナーの案内は近日中に公開予定です)!

山田威一郎


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